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AI研究

【AI論文解説】複数の指示を同時にこなすAIを作る新技術「GDPO」

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AI編集部

ラクタノ AI編集部

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1. この論文を一言で言うと

「正確さ」と「形式」など、複数の目標を同時に満たすAIを効率よく育てるNVIDIAの新技術。従来の学習法の弱点を克服し、複雑な業務指示にも忠実に従うAI開発が可能になります。

これまで、AIに「正しい答えを出して」かつ「指定したフォーマット(JSON形式など)を守って」さらに「文字数は短く」といった複数の指示を同時に出すと、どれか一つがおろそかになりがちでした。

今回紹介するGDPO(Group reward-Decoupled Normalization Policy Optimization)」は、NVIDIAや香港科技大学の研究チームが開発した新しい学習手法です。この技術を使うことで、AIは「あちらを立てればこちらが立たず」というジレンマを解消し、複雑な業務ルールを完璧に守りながら、高精度な回答を出力できるようになります。まさに、実務で使える「気の利くAI」を育てるための画期的な教育法と言えるでしょう。

論文の要点を図解
論文の要点を図解

2. なぜ今この研究が重要なのか

ビジネス現場で直面する「AIの限界」

ChatGPTなどの大規模言語モデルLLM)の普及により、多くの企業が業務効率化にAIを取り入れ始めました。しかし、実務担当者の多くが次のような壁にぶつかっています。

  • 「回答内容は合っているが、システムに登録するためのデータ形式(JSONやCSV)が崩れていてエラーになる」
  • 「簡潔に答えてほしいのに、前置きが長すぎて読むのに時間がかかる」
  • 「安全性フィルタが厳しすぎて、必要な業務知識までブロックされてしまう」

これらはすべて、AIが「複数の要件(マルチ報酬)」を同時に満たすことの難しさに起因しています。

従来の「しつけ方」の問題点

AIを賢くするために、人間からのフィードバックを与えて学習させる「強化学習))(RLHFなど)」という手法が一般的です。これは、AIが良い回答をしたら「報酬(ご褒美)」を与えるという、ペットのしつけのようなものです。

しかし、従来の手法(特にGRPOなどの最近の主流手法)には、「ご褒美のどんぶり勘定」という問題がありました。

例えば、「正解しているか(正答性)」と「形式が正しいか(形式遵守)」という2つのテストをしたとします。従来の手法では、この2つの点数を単純に合計してAIを評価していました。

  • ケースA: 正答性 100点 + 形式 0点 = 合計 100点
  • ケースB: 正答性 50点 + 形式 50点 = 合計 100点

AIから見ると、ケースAもBも「同じ100点の行動」として処理されてしまいます。その結果、AIは「形式を無視しても、正解さえしていれば高得点がもらえる」と誤解したり、逆に「どっちを頑張ればいいのかわからない」と混乱したりして、学習が停滞してしまうのです。

今、この技術が必要な理由

2025年から2026年にかけて、AIのトレンドは「チャットボット(対話)」から「エージェント(自律的な業務代行)」へとシフトしています。エージェントは、勝手に外部ツールを使ったり、プログラムを書いたりして仕事をこなします。

そこでは、「形式ミス」や「ルールの逸脱」は致命的なシステムエラーに直結します。「なんとなく会話が上手」なAIではなく、「厳密にルールを守れる」AIが求められている今、このGDPOという技術は、ビジネスAIの信頼性を底上げする重要なピースとなるのです。


3. 技術的に何が新しいのか

GDPOの革新点:評価軸ごとの「個別指導」

本論文で提案されたGDPO(Group reward-Decoupled Normalization Policy Optimization)の最大の特徴は、AIへの評価(報酬)を「合計」せず、評価軸ごとに「偏差値化(正規化)」してから統合する点にあります。

少し専門的になりますが、わかりやすく「学校のテスト」で例えてみましょう。

従来手法(GRPOなど)のアプローチ

国語と数学のテストを行い、単純に「合計点」だけで順位をつけます。

これだと、「国語は満点だが数学は0点」の生徒と、「両方とも平均点」の生徒の区別がつきにくくなります。その結果、AIは「数学(形式遵守など)を捨てて、国語(正解率)だけで点を稼ごう」という偏った学習(ハッキング)をしてしまうことがありました。

GDPOのアプローチ

GDPOでは、まず国語と数学、それぞれの科目ごとに「クラスの中での偏差値」を計算します。

「あなたは国語に関しては平均よりすごく高いけど、数学に関しては平均より低いね」という情報を明確にしてから、総合評価を下します。

  • 情報の保持: 各評価軸(正解率、形式、安全性など)における「良し悪し」の情報が消えずに残ります。
  • 優先順位の明確化: 「今回は数学(形式)の成績が悪かったから、次はそこを直そう」とAIが学習しやすくなります。

図解イメージ:情報の解像度が違う

  • 従来: 複数の指示 → ミキサーで混ぜて一つのジュース(報酬)にする → 味の区別がつかない
  • GDPO: 複数の指示 → プレートランチのように別々に盛り付ける → 何が美味しくて何が足りないかが明確

実証された圧倒的な成果

NVIDIAなどの研究チームが行った実験では、数学問題、プログラミングコード生成、外部ツール利用といったタスクにおいて、GDPOは従来手法を大きく上回る成果を出しました。

特に注目すべきは、「トレードオフ(あちらを立てればこちらが立たず)」の解消です。

通常、AIに「文字数を減らせ」と指示すると、必要な情報まで削ってしまい「正解率」が下がることがよくあります。しかし、GDPOを使って学習させたモデルは、正解率を維持したまま、厳しい文字数制限やフォーマット指定をクリアすることに成功しました。

これは、AIが「短くすること」と「正解すること」を別の目標として認識し、両方を同時に最適化するルートを見つけ出せるようになったことを意味します。


4. 実社会・ビジネスへのインパクト

この技術は、研究室の中だけの話ではありません。中小企業の現場において、以下のような具体的なメリットをもたらします。

1. 複雑な定型業務の完全自動化

例えば、顧客からの問い合わせメールを分析し、社内のCRM(顧客管理システム)に自動登録する業務を考えてみましょう。

  • 現状のAI:

「メールの内容は理解できたが、CRMが要求するJSON形式のカッコが一つ抜けていて登録エラーになる」あるいは「不要な挨拶文が含まれていてデータが汚れる」。

  • GDPO適用後のAI:

「顧客の意図(正解率)」を正確に汲み取りつつ、「CRM規定の厳密なJSON形式(形式遵守)」で、かつ「備考欄の文字数制限(制約条件)」を守って出力する。

このように、人間が手直しする必要がないレベルでの「完パケ」納品がAIに可能になります。

2. AIエージェント開発の加速とコストダウン

自社専用のAIチャットボットや、予約代行エージェントを開発する場合、AIが外部APIGoogleカレンダーや在庫管理システムなど)を操作する必要があります。

APIは「引数の指定ミス」を一切許容しません。GDPOによって「ツールの使い方(形式)」を厳密に守れるAIが作れれば、エージェントの開発工数は激減し、誤作動によるトラブルも防げます。

また、「無駄に長い回答をしない」という制御が効くようになるため、従量課金制のAIモデルOpenAI APIなど)を利用する場合、トークン消費量を抑えてコスト削減につなげることも可能です。

3. 「社内ルール」と「一般常識」の両立

企業には独自の「トーン&マナー」や「コンプライアンス規定」があります。

GDPOを使えば、「一般的な正解(Web上の知識)」と「社内独自のルール(口調、禁止用語、優先順位)」という、異なる報酬軸をバランスよく学習させることができます。

「正解だけど、ウチの会社らしくない回答」を減らし、即戦力となるAI社員を育てることが容易になります。


5. 中小企業が今からできる備え

GDPOのような高度な学習技術は、いずれMicrosoft CopilotやChatGPTのエンタープライズ版、あるいは受託開発されるAIモデルの裏側に標準搭載されていくでしょう。その恩恵を最大限に受けるために、経営者や実務担当者が「今」やっておくべきアクションアイテムは以下の3点です。

1. 業務における「評価軸」を言語化する

AIに任せたい業務について、「何をもって100点とするか」を分解して定義してください。

単に「いい感じの返信書いて」では、GDPOのような技術も活かせません。

  • 正答性: 事実に基づいているか?
  • 形式: 指定したテンプレート通りか?
  • 簡潔性: 300文字以内か?
  • トーン: 親しみやすいか、堅いか?

これらをリストアップしておくことが、将来的にAIを導入・調整する際の「設計図」になります。

2. 「指示従順性(Instruction Following)」に注目する

今後、新しいAIモデルやサービスを選定する際は、ベンチマークスコアの中でも「Instruction Following(指示に従う能力)」「Constraint Satisfaction(制約充足)」といった項目に注目してください。

単純な「知識量(MMLUスコアなど)」だけでなく、こちらの細かい注文を聞いてくれるかどうかが、実務での使い勝手を左右します。GDPOのような技術が採用されているモデルは、このスコアが高くなる傾向にあります。

3. 社内データの「構造化」を進める

AIに「形式を守らせる」ためには、学習や参照の元となるデータ(過去の日報、対応履歴、仕様書など)が整理されている必要があります。

表記ゆれが激しかったり、フォーマットがバラバラだったりすると、いくらAIの学習能力(GDPO)が高くても、正解を見つけられません。

今のうちに社内データのフォーマットを統一し、「AIが読みやすいデータ」を蓄積しておくことが、最強のAI活用への近道です。


6. 論文情報

本記事で紹介した技術の詳細は、以下の論文で確認できます。

  • タイトル: GDPO: Group reward-Decoupled Normalization Policy Optimization for Multi-reward RL Optimization
  • 著者: Shih-Yang Liu (NVIDIA / HKUST), Xin Dong (NVIDIA), Ximing Lu (University of Washington / AI2), Shizhe Diao (HKUST), Peter Belcak (ETH Zurich) 他
  • 公開日: 2026年1月8日
  • arXivリンク: https://arxiv.org/abs/2601.05242v1

※本記事は論文の要約およびビジネス向けの解釈を加えたものです。技術的な詳細や数式については、原論文をご参照ください。

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